アホでスケベな王太子に付き合わなくて済むのはカイザー個人としては願ったりであるが、王城騎士としては困った問題である。

カイザーは自分の戦闘力が秀でていることを客観的な目で見て理解しているため、悪しき輩に命を狙われやすい要人の護衛は、自分がすべきだと考えていた。

それで彼が無言でじっと見つめたら……王太子がたじろいだそうだ。


『な、なんだよ』

『いえ、承知しました。今後は王太子殿下の護衛は他の者にーー』

『ま、待て。やっぱりお前じゃないと駄目だ。次期国王の俺様の護衛は、腕の立つ騎士でないといけない。だが、女の子の前では、顔を隠すようにしてくれよ』

『……御意』


グリゴリーが語った麗しき王城騎士、カイザーの苦労話に、イワノフとオルガは笑い声を上げたが、前を歩くふたりの耳には届いていないようである。

言い争いをしていたラナとカイザーは今、なぜかにらめっこ対決をしていた。

後ろを歩く三人には、ふたりの顔は見えないが、ラナが吹き出して負けてしまったということはわかった。


「ちょ、待って!ずるいって。カイザーの変顔、最強だから、笑わずにいられないよ」