真ん中をちょこちょこと歩くオルガが、「カイザーさんの頭を叩ける女性は、世界広しといえども、姫様しかいないのではないでしょうか」と感心して呟けば、その左側を歩くイワノフがホッホと笑った。


「そうじゃのう。色男の伊達男。姫様は例外として、おなごなら誰しも夢中になりそうじゃ。わしも美男子に生まれておったら、学問の他にも楽しみが多い人生になっておったかもしれんの」


するとオルガの右側を歩くグリゴリーが、「そうでもありませんよ」と人のよさそうな笑顔で口を挟んだ。


「カイザーさんは、顔がいいが故に結構苦労しています。先月、こんなことがありましてーー」


グリゴリーは城下街での王太子の公務に、王城騎士数人で護衛として付き添った時の話を始めた。

町娘がカイザーを見てキャアキャアと黄色い声を上げるのが面白くない王太子は、次第に不機嫌になり、文句を言ってきたそうだ。


『俺様が霞むだろ。そこの騎士、かっこつけた顔をするな。もっと崩せ』


そんなおかしな命令をされたカイザーは、面倒くさそうな目をしながらも、『こうですか?』と顔を歪めてみせたらしい。

しかし、『駄目だ。まだイケメンだ』と許してくれない王太子は、『可愛子ちゃんがお前ばかりに声援を送るのは不愉快だから、今後、俺様の護衛にお前をつけない』と言い放ったそうだ。