懲らしめて差し上げますっ!~じゃじゃ馬王女の下克上日記~

「ご覧ください、この圧倒的なまでに優れた構図と筆使いを。天にも昇る心地にさせられるではありませんか。我が領地の三年分の予算が吹っ飛びましたが……後悔はありません。世界的に最も価値ある名画を手に入れたのですから!」


後ろに倒れそうなほどにのけぞって高笑いする伯爵に、声をかける者はいなかった。

カイザーはあくびをしていて、グリゴリーは小指で耳をほじり、イワノフは鼻をかんでいる。

オルガは真偽を伝えてもいいものかという目で、隣にいるラナをチラリと見ていた。

それに気づいたラナは、ため息をひとつつくと、自分が行くという意思を目線でオルガに伝え、まずはカーテンの閉められた窓際にいるカイザーの前に立った。

その腰から無言で自分の剣を鞘ごと引き抜いたラナを、彼はニヤリとして見るだけでなにも聞かない。

ラナがなにをしようとしているのか、勘付いているからだろう。


剣を腰に携えて引き返したラナは、巨大な絵画に歩み寄り、中央に立った。

笑いを収めた伯爵が、「王女殿下……?」と後ろから呼びかけた次の瞬間、ラナは剣を鞘から引き抜くと、下から上へと斜めに絵を斬りつけたのである。


大きな傷のついた、時価数億ゼニーの絵画を前にして、「ギャーッ!!」とけたたましい叫び声を上げた伯爵は、膝から崩れて落ちて絨毯敷きの床にペタンとお尻をつけてしまった。