懲らしめて差し上げますっ!~じゃじゃ馬王女の下克上日記~

トカゲが懐からナイフを二本取り出し、逆手に持って構えたら、屋根の上や建物の陰から、同じ衣装を纏って仮面をつけた仲間の隠密が十名現れた。

六十名ほどの伯爵側の護衛兵と、メインストリートのあちこちで激しい戦闘が始まる。

剣やナイフが交わる物騒な金属音や、倒れる兵の呻き声、それを見ている町娘たちの悲鳴も轟く戦場と化したが、血が流れていないのは、ラナたちが斬らないように気をつけているせいであった。

斬るというより、相手の武器を砕いたり、弾き飛ばしたり、気絶させたりと、手加減しているのである。

それほどに力の差は歴然で、戦意を失い逃げ出す者まで現れた。


そして隠密一族が加わってから五分ほどが経過した時、張り切って剣を振るっていたラナが、「疲れてきたし、もういいわ」とカイザーに声をかけた。

その声には、ひと暴れしてスッキリしたような響きがある。

「了解」と返事をしたカイザーは、相手をしていた兵のみぞおちを突いて簡単に沈めると、「静まれ、静まれー!」とよく通る声を辺りに響かせた。