「カイザー、覚悟!」

一瞬たりとも気を抜けない真剣での稽古は、一時間ほど続いている。

闘技場を駆け回っているラナの息は上がり、足にだるさを感じていた。

それでもカイザーに、「バテたなら、終わりにするか?」と鼻で笑われたら、「ぜんっぜん、疲れてないから」と強がりを言うのだ。


ラナは、剣の腕前でカイザーに敵わないのはわかっている。

幼い頃の喧嘩の勝敗は五分であっても、今は男女の生物学的な力の差がある。

それを抜きにしたって、カイザーは王城騎士の中で、一二を争う猛者なのだ。

到底、太刀打ちできる相手ではなく、稽古という名目で、毎度遊ばれているようなものであった。


それでもラナは、一矢報いないまま終わるのが悔しくて仕方ない。

幼馴染で親友のような存在である彼に対しては特に、負けず嫌いな性格を前面に出してぶつかってしまう。


「ヤアーッ!」と声を上げて振り下ろした彼女の剣は、カイザーによって弾かれて飛ばされ、斜め後ろの土の地面に突き刺さる。

「勝負あり。今日も俺の圧勝だな。また挑んでこい」と不敵に笑うカイザーに、ラナは「悔しいー!」と素直な気持ちを叫んで地団駄を踏んだ。

その時、闘技場の入口に人の気配がして、ふたりは揃って振り向いた。