そう言い終えた直後に、ふたりは同時に背を向けた。

照れくさくてたまらない……そんな心の声が聞こえてきそうである。


焚き火から離れ、夜の暗がりに紛れて近づいていたのはイワノフたちだ。

会話の全てを盗み聞きしていた三人は、興奮を抑えきれない様子で顔を寄せ合い、ヒソヒソと囁き合う。


「ああ、もう、じれったい! キスまでしておいて、どうして好きだと言えないんでしょうか!」

普段の冷静さを失い、鼻息荒くそう言ったのはオルガである。


「男なら、あそこでハッキリと告白すべきじゃったかのう」と同意しつつも、イワノフはカイザーの弁護もする。

「恋心を打ち明けたところで、相手は次期女王だ。結ばれることは叶わぬとわかっておるからこそ、言えんのじゃろう。気の毒にの」


王族の婚姻相手にはいくつかの条件がある。

そのひとつに、子爵以上の家柄の者でなければならないと、王室典範に明記されているのだ。

残念ながら騎士爵しか持っていないカイザーは、ラナの夫となる資格はなかった。


「それでも自分は、おふたりの恋の成就を願ってやみません」と真面目に応援するのは、グリゴリーである。

「なにがあろうと自分はカイザーさんの味方ですからーー」と熱く語るグリゴリーが、なぜか言葉を切り、急に眉を寄せた。