「そうなの。絶対、買いにいかなくちゃ!」


教えてくれた商人たちに「ありがとう」とラナが微笑みかけたら、彼らは揃って頬を染めた。

着飾っていなくても彼女は愛らしい顔立ちをしているので、若い男性に好意を持たれるのは自然なことである。


機嫌のいいラナに対して、隣に座るカイザーは面白くない顔をしている。

商人のひとりが「よかったら、燻製工場に僕らが案内してあげてもーー」と言いかけたので、「結構だ」と厳しい口調で遮った。

それだけではなく、殺気立った目で睨みつけるから、気の毒にも商人たちは震え上がり、空いた隣のテーブルへと移ってしまった。


カイザーが彼らを警戒したのは、嫉妬以外のなにものでもない。

しかしラナは、「お姉さん、すみません!」と弾んだ声で店員を呼び寄せ、注文を始めており、カイザーの気持ちには全く気づかぬ様子である。


いつになれば、彼の想いは届くのか……。

気の毒なカイザーに、イワノフたち三人は同情しつつも、面白がる気持ちは消せず、それはニヤニヤとした口元に表れてしまっていた。


「美味しかった〜。肉、最高!」とラナが満足して食堂を出たのは、一時間ほど経った頃である。

「次はどこに行こうか?」と歩きながら問いかけたラナに、右隣のオルガが「燻製工場が気になりますね」と固い顔をして答える。

その後ろにいるイワノフが「そうじゃな」と頷けば、ラナはパチンと手を合わせ、嬉しそうに振り向いた。