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ルーモン伯爵領を出て、旅をすることひと月半ほど。

季節は秋になろうとしていた。

国の南西の国境沿いに位置するアダモビッチ侯爵領が、三つめの目的地である。

その領内の一番大きな町に入ったラナは、周囲を見回して感嘆の息をついた。

「随分と発展した大きな町ね。王都に引けを取らないわ」


三階建ての頑丈そうな建物が軒を連ね、小洒落た服装の婦人や、金持ちそうな商人が行き交っている。

劇場や美術館などの娯楽施設に大きな市場、どこを見ても活気溢れる様子であった。


貴族たちは、資産を中央政府に報告する義務がある。

荷物袋の中の資料には、アダモビッチ侯爵の豊かな資金力が記されていて、ラナたちはそれを頭にインプット済みであった。

この領地の農村地帯は養蜂と畜産業で栄え、町は隣国との交易の拠点となっている。

そのため、他貴族に比べ、財力があるのだと推測された。


青空の下、この道の奥には城のような大邸宅が見えている。

あれがアダモビッチ侯爵の住まいなのだろう。

大邸宅を中心に、放射状に六本の大通りが延びて町を形作っているようだ。