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ルーモン伯爵領の問題を解決したラナたちは、感謝を叫ぶ町中の民に見送られ、その日の午前中のうちに次の貴族領に向けて出発した。

のどかな景色の中、川沿いの道を二時間ほど歩いて、時刻はそろそろ正午になるところである。


ラナが空腹を訴えるため、一行は涼しい川岸で休憩を取ることにする。

グリゴリーが敷いたハイキング用の敷物に、円になって座り、中央にはたくさんのサンドイッチが置かれた。

サンドイッチは、ルーモン伯爵の支払いで、町の料理屋が拵えたものである。


蒸し鶏とゆで卵のサンドイッチに、嬉しそうにかぶりついていたラナであったが、ふとなにかに気づいた顔をして川を見た。

「どうした?」とカイザーが問えば、彼女は中州を指差す。


「王都では、見たことのない花が咲いているわ」


川幅は八メートルほどあろうか。

今は穏やかに流れていても、大きな岩がゴロゴロしているので、雨で増水した時には危険な川なのかもしれない。

その中州の岩肌に、しがみつくようにして、ポピーに似た白い花が群生していた。

近くに寄って観賞したくなるような、可憐な花である。