全部口に出したら、毒舌の日向子に、
「あんた、莫迦じゃないの?」
と言われること必至《ひっし》なので、無言で、日向子の手を握り、感涙にむせんでいたのだが。

「なんなの、あんた。
 莫迦じゃないの?」
と口に出してもいないのに、結局、罵られてしまった。

 ああ、ありがとう、日向子さん。

「お礼になにかしたい気分です」
と言うと、日向子はなんのことだかわかっているのか。

「じゃあ、そこで、舞い踊りなさいよ、鯛やヒラメ」
と女王様らしい口調で命じてくるので、危うく、本当に舞い踊りそうになった。

 だが、踊り出す前に、何故か、日向子が微笑ましげに笑い、いきなり、店のドアを開けて飛び込んできたものも居たので、踊らずに済んだのだが。

「あー、寒い寒い。
 なんか飲ませてよー」

 ……だから、この店、ただいま、クローズになってると思うんですが。

 寒そうに手をこすり合わせながら入ってきたのは、静《しずか》だった。