今日は朝から曇り。
今にも雪の粒が落ちてきそうな灰色の雲だった。


「今日は何の日か、わかるよね」


黒いスーツを着た兄が、笑顔もなく私の部屋の前に立っていた。


「うん……」

「母さん──夏奈さんの命日だ」


母の命日である今日は、兄と父と一緒にお墓参りへ行くことになっていた。

私は黒いワンピースを身に纏い、迎えに来た父の車に乗り込んだ。


「優希奈。今まで辛い思いをさせたな。本当に、悪かった」

「……いいの。私こそ、今まで家族でいてくれて、ありがとう」


母が亡くなってからも、父は血の繋がらない私を本当の娘のように育ててくれている。

だから、感謝しかない。




見晴らしの良い霊園の入口から、そう遠くない位置に母の眠る墓があり、雪はあまり深くなかったため入ることができた。


けれど墓石の前には先客がいて、その手前で私達は立ち止まる。


どこかで見覚えのある──誰かによく似た男性が花を手向けていた。


40歳になる父と同じか、少し下くらいの年齢だろうか。

ライダースジャケットを着て、赤みの強い茶色の髪をしている。