肩くらいまでの長さの艶やかな黒髪の少女が私と目が会うと嬉しそうに微笑む。


「真莉亜様!」


慕ってくれていると思っていた。憎まれているなんて気づかなかった。




「来てくれてありがとう。————希乃愛」


久世の従兄妹で真莉亜とも昔から交流があった五辻家の令嬢。

彼女はレケナウルティアというタイトルの小説を書いた文芸部の部長であり、百合園同好会のメンバーだ。



「あら? 雨宮様もいらしたのですね」

「希乃愛、単刀直入に言うわね」

普段のおっとりとした笑みを貼り付けたまま、希乃愛が視線を向けてくる。



この子が私を陥れようとしていたなんて想像がつかないけれど、レケナウルティアの小説は従兄を想っていても報われず、傲慢な婚約者に囚われている彼を救うために人殺しをした女の子の話だった。


けして報われることのない悲恋。最後には彼女自身も命を絶つ。


舞台となっている場所も、関係性や性格も原作の久世と希乃愛、真莉亜とよく似ていた。