咲耶は、小太りの“神官”に言われるがまま、コの字型の回廊の末席にあたるだろう場所に通されていた。

奥のほうに目をやれば、一段高くなった場所があり、御簾(みす)がかかっている。
いわゆる高貴な御方が座ってそうな感じだが、咲耶の位置からでは気配すら判らなかった。

しかし、御簾前にいる狩衣の男が扇を手に口を開いているのを見ると、やはり奥にも人がいると思われた。

(……なんか、場違いな感じ……?)

ちらちらと、場にいた者たちの物問いたげな視線を感じたが、咲耶はあえて気づかぬ素振りで腰を下ろした。

考えてみれば、咲耶の知り合いはこの国の“神獣”と“花嫁”だけだ。
他に、これといって交流はない。

てっきりハクコにもすぐに会えるだろうと踏んできたが、回廊に用意された酒席を見渡す限りは、それらしき人影はなかった。


「──犬朗。ハクがどこにいるか、判る?」

『んー……旦那の気配はする。けど、感じ方がいつもより弱いんだよな。
なんか、邪魔されてるっつーか、妨害されてるカンジ?』

「それ……ハクになんかあったって、こと?」