いつもなら、とっくに休んでいる時間ではあったが、今日は朝から晩までいろいろとあって──ありすぎて。
咲耶は、なかなか寝つけずにいた。

(先に寝ててもいいんだろうけど……)

ハクコに、まだきちんと礼を述べていない。
百合子の指摘を受けて犬貴が提言したのか、闘十郎から直接、苦言を呈されたのか、それは解らない。
どちらにせよ、ハクコが咲耶のためを思って、新たに“眷属”を増やしたことには違いなかった。

これで少なくとも百合子の懸念のひとつは、なくなったことになる。犬貴が“眷属”として、ハクコと咲耶、どちらを優先するべきかなどと、悩まなくて済むからだ。

(まぁ、そんな事態にならないことが、一番だけどね)

備えあれば憂いなし、ともいう。咲耶の力量が伴わない今だからこそ、尽くせる手は尽くしておくべきだろう。

「失礼する」

布団の上でひざを抱えていた咲耶は、その声の持ち主を、勢いよく振り返った。

「すごいね、ハク。今日だけで、“眷属”が三人も増えるだなんて──」

気づいた時、咲耶はハクコに抱きすくめられていた。いきなりのことに事態がのみこめない咲耶の耳に、ハクコの低くかすれた声が、響く。

「……だから、【ここに】いてくれ」
「え?」
「“仮の花嫁”は、元いた世界に戻れるのだそうだな? コクに聞いた。だが──戻らないでくれ……」

揺れて、震える声。
切実な、願いのこめられたハクコの言葉に、昼間いだいた想いが、ふたたび咲耶の胸のうちにわきあがる。……泣きたいほど、愛しい感情。

「あのね、ハク、私……──」

言いかけた咲耶の身体から、ハクコのぬくもりが腕にあるものだけを残し、離れる。直後、咲耶は布団の上に押し倒されていた。

燈台の灯りが斜めに照らす、端正な顔立ち。陰影がつけば、ことさら際立って美しさが増して。
さらりと、咲耶の顔の脇に、色素の薄い髪がこぼれ落ちた。
向けられる眼差しの強さに、咲耶は、仰向けで横たわっているのに、めまいがするような気がした。

「ここに……私の側に、居てくれ。