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「これ……すそ短くないかな?」
「……なにソレ、あたしの足が短いって言いたいの?」
「や、美穂さんと私じゃ身長差があるから、そもそもそういうことじゃなくて……」
「いいよね~、ソッチは無駄に胸がデカくて。あたしなんか、このペッタンコな胸のせいで、あいつに最初、男と間違われたんだよ?」
「……そ、そうなの?」

咲耶は、いつも穿()いている筒袴よりも大幅に丈が短い筒袴のすそから出ている、自らの太ももをなでつけながら相づちをうった。
……何気に失礼な発言をしている美穂に、突っ込む余裕がいまの咲耶にはない。

傍らで“花嫁”らのやり取りを見守っていた“花子”の少女が、咲耶に姿見を向ける。

「姫さま。よくお似合いですわ。
……少し、丈が短いのが気になりますけど」
「だよね? やっぱりちょっと……」

変じゃない? という言葉を、咲耶はかろうじてのみこむ。
なぜならば、咲耶がいま身につけたこの着物は、茜と美穂からの贈り物だからだ。

「ちょっと何? あたしとお(そろ)いなのが、そんなにイヤなの?」
「えっと、そうじゃなくて、足が……」

普段着として慣れた水干とは違う、変則的な振袖と筒袴。
咲耶が愛用している掛水干同様、本来の様式ではなく、美穂が着やすいよう彼女の“花子”である菊が仕立てたであろうことは、容易に想像がつく。

──そもそもの事の起こりは宴に戻った咲耶が、
「美穂さん、今日の格好可愛いね」
と、深く考えずに言ったのに対し、
「あ、忘れてた。あんたの分もちゃんとあるよ~。猿助、アレ!」
と、自らの“眷属”を呼びつけ美穂が咲耶に手渡してきた物に、宴の席を抜け、こうして自室で着替えるに至ったのだった。

(そりゃ、美穂さんは足が細いからいいけどさ)

ひざ下ならともかく、ひざ上を堂々と人前にさらせるほど咲耶の足は細くはなかった。

「ほら、つべこべ言ってないで行くよ」

渋る咲耶の手を無理やり引っ張り、美穂は宴の席へとずんずんと歩いて行く。
月光はまっすぐに宴の庭に落ちて、場にいるモノたちをほの明るく照らしていた。