人の生気を喰らうこと。
“神獣”とその“花嫁”の“眷属”である以上、それはどの世界においても禁忌とされる。

犬貴たちの行為はヘビ神の怒りに触れ、滅されてもおかしくはなかった。
しかし──。

「カカ様は我らに対し、白河家に使役されることを条件に、この世界での滞在を許してくださったのです」

咲耶はこちらに来る途中、白河家が代々神職を生業(なりわい)とし、一葉たちの父親が宮司であることを聞いた。

一葉自身も神職ではあるが、表稼業ではなく裏稼業の仕事をおもにしているらしい。……いわゆる心霊相談の類いだ。

「お二方には浄霊(じょうれい)除霊(じょれい)を手伝っていただきました」

吸い物の(わん)を配膳しながら、一葉がニヤリと笑う。
……和彰だけでなく、犬貴たちも相当苦労させられたようだ。

「ま、その過程で(あやかし)なんかの『気』を喰らったりしても、充分じゃなくてさ。
足りねぇ分を、こうして人間サマの食いモンから頂戴してるってワケだ。
……ふらあどちきんは二葉チャンが揚げてくれた?」

一葉との間で見えない火花を一瞬散らした犬朗が問うと、満面の笑みで二葉が応えた。

「はい! 犬貴様のために!」
「…………うん。そっか」

ガックリと犬朗がうなだれたのは、人が自分のためにこしらえた食物を摂取することは、より濃い『生気』が得られるからだという。
そうして、咲耶が考えていたよりは、なごやかなムードのまま昼食の時は過ぎたのだが。

「でもよぉ、なんで咲耶サマに『里帰り』くらいさせてやれねぇの?」
という、犬朗の何気ないひとことが、場の空気を変えた。

「……まるで、意地悪な(しゅうと)が嫁を実家に帰してやらないことのように、言いますね」

咲耶たちに食後のコーヒーを配り終えた一葉が、例によって皮肉げな笑みを浮かべた。

「そりゃ、頻繁にアッチの世界とコッチの世界を往き来すんのは、マズイかもしんねぇけどさ。
一年に一回とかなら、いいんじゃねぇの?」
「……咲耶さんも、そう思いますか?」

犬朗の問いには応えずに、一葉が咲耶を見る。