「……何だ、いまのは」

淡い期待をすっぱりと切り捨てるハクコの物言いに、咲耶は軽く落ち込んだ。

(ダメ!? やっぱ、この程度じゃダメなの? もっと濃厚で、エロエロな感じの【伝え方】じゃなきゃ、ダメなのぉ~っ!?)

「……すみません、修行が足りないみたいなんで、また改めて……」

ハクコの胸もとを握りしめたまま意気消沈する咲耶の頭上で、ふっと笑うような気配が感じられた。
驚いて見上げれば、今度は確実にそれと分かる微笑みが、ハクコから向けられていた。

「お前の言動は、脈絡がない。だが……悪くない」

言って、重ねた手を改めて握り直し、ふたたびハクコが咲耶の手を引く。つられて歩きだす咲耶は、一瞬前の初めて見るハクコの微笑に、魂が抜けかけていた。

(──……っ、なんて危険な微笑みなのっ。そりゃ、やたらに笑ってちゃダメだわ!)

微笑み危険、と、この白い水干の背中に書いておくべきか、などと。半ば真剣に考えながらも咲耶の胸のうちには、あたたかな想いも灯り始めていた。
この微笑みを独占できるのも“花嫁”の特権だろうという、今日一番の【有益情報】によって。