声色は幼いまま。しかし、煌の放つ気配には、おごそかな有無を言わせぬ力があった。

(いや、記憶まで、奪われたくない……!)

咲耶は必死に抵抗を試みようとするが、圧倒的な支配者のそれを感じ、金縛りにでもあったかのように身体が動かない。

まばたきすらできない咲耶の目に、開かれた煌の瞳が映りこむ。──血の色をした虹彩(こうさい)のなかの、縦長の瞳孔。
その眼は、咲耶にある生き物を連想させた。

(ああ、だから、『カカ様』なんだ)

幼い頃、祖母の家に遊びに行った咲耶に、母が気をつけなさいと言った存在(もの)
毒を持ち、山に潜み、時として『神』と(あが)められるもの。

(ヘビの、神様だったんだ……)

見つめ合わされた『(かか)』の目に囚われ、思考力さえも奪われていく。
せめて心だけはと、咲耶は薄れていく意識のなかで、ひとつの名を刻みつけるように想う。

(……和彰……)

煌という幼きヘビ神の眼光に、文字通り咲耶は射抜かれた。
心には愛しき者の名があったが、気まぐれな神の御力によって、容赦なく霧散されていくのであった……。