すると、まばゆい光が辺りを照らし、驚きに目を見張る咲耶の前で、封じられていたはずの“眷属”らが姿を現した。

「みんなっ……」

状況が分からずにとまどうタヌキ耳の少年。

自らの身体を見下ろしたのち、咲耶に向けた隻眼をまぶしそうに細める虎毛犬。

そのなかで、迷うことなく咲耶を見つめた精悍な顔立ちの虎毛犬が、口を開く。

「咲耶様、ご命令を」

来るべき時がきたのだと、咲耶に知らしめるように。
うながす犬貴に、咲耶の胸が緊張と興奮によって高鳴った。震える思いで、咲耶は“主命”を口にする。

「……私を、和彰の“神の器”のある場所に、連れて行って」





調子をとるように打ち鳴らされる鼓、笙に合わせて豊かな彩りをそえる弦の音が、空間を伝わって流れてくる。

「……無茶なことをなさいました」

ぽつりと漏らされた言葉には責めるところはなく、むしろ優しい嘆きでもって咲耶をねぎらう想いがにじみ出ていた。
そんな犬貴に、咲耶は苦笑いを返す。

「うん。だけど……他に方法が思い浮かばなくて」

思うように歩くことができない咲耶を支えるのは、たぬ吉の腕。前方を足早に、それでも“主”を窺いながら歩く犬貴。
後方には辺りに目を配り、咲耶のあとを追う犬朗と転転がいた。

「……けどよ、その身体で“神力”が扱えるのか?」

めずらしく渋い声で咲耶の身を案じる犬朗に、咲耶は笑ってみせる。

「扱えるわ。……ううん、扱うしか選択肢はないと思う」

咲耶の推測が正しければ、愁月はその舞台を用意しているはずなのだから。

──和彰の“御珠”を体内に入れた咲耶は、和彰の魂の『依代(よりしろ)』となっているのだろうというのが、犬貴の見解だった。
咲耶の数々の不可思議な体験は、和彰の魂の記憶に違いないと、と。

(犬貴や犬朗が私を見てすぐに気づいたように、愁月だって私がしたことに勘づいたはず)

咲耶が身内に和彰を取り込んだことを。それをあえて指摘しなかったのには、やはり、別の思惑があったからだろう。

「咲耶様」

緊迫した犬貴の呼びかけ。瞬時に、傍らの“眷属”たちに緊張が走る。