いきなり布に包まれた玉を見せられ、これが和彰だと言われても易々と信じられるものではなかった。

(だけど……愁月の言葉には、説得力があった)

血の穢れに弱いとされる白い“花嫁”。失われた“神力”。

(和彰が穢れてしまって“神獣”としての清い力を無くしてしまったからだって)

つじつまは合う。しかし──。

「会えると思ってたのに……」

ぽつりとこぼれ落ちたのは、叶わなかった再会のこと。

「なのに……こんな姿になってしまっただなんて……」

胸の奥がしめつけられて、息をするのも苦しくなる。

たとえ咲耶のことを忘れてしまっていても、瞳を見交わし話をすれば何かしらの反応があって、いつかはまた、咲耶を思いだしてくれるかもしれない。
そんな漠然とした希望が、咲耶のなかにはあったのだ。

「……和彰……」

真名(なまえ)を呼びかけても応えてくれないはずだ。応じられなかったのだから。

「──姫さまっ」

椿の驚いた声に、咲耶はうつむいていた顔を上げる。椿の視線の先は、袱紗の上にある蒼白い玉だった。

「姫さまがハク様の御名を口にされた時、“御珠”が光りました!」
「え……?」
「まるで、姫さまのお声に応えるかのようでした」

ぎゅっと胸の前で両手を握りしめ、興奮したように椿が咲耶を見つめる。
期待がこめられた眼差しを向けられ、咲耶はとまどいながらも、この場にいないはずの愛しい者の名を呼びかけた。

「かず、あき……?」

今度は、玻璃の玉を凝視しながら。
すると、弱々しい輝きだが椿の言う通り、小さな光を放ったのが咲耶にも分かった。

「和彰」

もう一度、名前を呼びながら“御珠”へと手を伸ばし、目の高さに上げる。
じかに触れた玉から、わずかな発光と共に、ぬくもりが感じられた。

──言葉はない。確固たる証もない。
にもかかわらず、咲耶のなかでその“御珠”が、真実、和彰の『(こころ)』なのだという確信が、もてた瞬間だった。

「椿ちゃん」

手にした玻璃の玉を胸にそっとあてがい、咲耶は言った。

「私、“神獣の里”に行ってくるわ。……和彰と、一緒に」

感極まったように、うるんだ瞳で椿が咲耶を見返した。

「姫さま……! はい、姫さま、はい……!」

小さく何度もうなずき返しながら。