判断を下したのは、己の心。だからこそ自らが為したことに、責任がとれるのだ。

(和彰……)


想うは、咲耶の心を自由にした、気高く美しい白い“神獣”の言葉。

「お前が信じることを為せ」
そう告げて消えた愛しい面影を胸にいだき、咲耶は道幻を見据える。

「あなたがどんな理由で私をここへ喚び寄せたのかは知らない。
でも……どんな理由があったとしても、椿ちゃんを手にかけたことは絶対に(ゆる)せない!」

叫ぶ咲耶を物ともせず、ふむ、と、道幻は相づちをうつ。

「元より、赦しを乞うつもりはない。我が求めるは、ぬしの“神力”の使い(みち)
「使い途……?」

人を助ける以外に、何があるというのか。
そう思う咲耶の心中を察したかのように、道幻が応じる。

「赤い“花嫁”のように、無闇にただ与えられた『神の力』を授けるのではなく。
黒い“花嫁”のように、自らの内にある『神の力』を忌みながら遣うのではなく。
我は、ぬしのように自らの内にある『神の力』を尊び、あらゆる民に授けようとする心意気を欲したのだ、白い“花嫁”よ」

言って立ち上がった黒衣の男が、両手を広げる。

「か弱き者を助けるための“神力”。その力でもって、共に衆生の魂を救おうではないか!」

大きな目をさらに見開いて咲耶を見る道幻に、吐き気を覚えた。

(本当に、この人は、何を言っているんだろう)

いわんとすることは解るが、咲耶に対し「矛盾している」といった口が言うことではない。

「……犬朗が言ってた通りだわ。あなた、本当になまぐさ坊主ね」

ぼそりと告げた咲耶に、道幻の左眉がピクリと跳ね上がる。咲耶は大きく息を吸い込み、勢いこんで言った。

「犬貴が言っていたように、耳を貸す必要も、なかった! あなたとの問答は、ムダだったわ!」

吐き捨てるように、今度ははっきりと非難をこめる。初めて、道幻の顔がこわばった。

「か弱き者だの衆生の魂だのと、結構なお題目を並べてくれたけどあなたが言ったことは全部、偽善よ!
自分が椿ちゃんや権ノ介さんにしたことを、忘れたとでも言うの!?」