「あの、今日はどういうご用件で……?」
「先日、若がお話ししたことを覚えておいででしょうか? “神現しの宴”の……代償の件でございます」

虎次郎であれば、難癖つけて追い返すことも考えなくもなかったが──。
咲耶は、この沙雪という(りん)とした眼差しの女性が、嫌いではなかった。だから思わず、素直に訊き返してしまう。

「私に、どんな代償を払えというんですか?」

漆黒の髪を、虎次郎と同じように高い位置で結んだ沙雪の髪が、さらりと揺れた。咲耶を見つめる眼に憂いを忍ばせ、小さく笑う。

「白の姫は、ご自分がなされたことを後悔してはおられぬはず。
なれど、ご自分が引き起こしたことの報いを、受ける覚悟はおありなのですね?」
「……覚悟というより、責任は、果たしたいです。
虎次郎……さんが言っていた『見物料』っていうのが、必要な徴収であったのであれば」

沙雪が今日こうして来たことを考えれば、『必要な徴収』であった可能性が高い。

虎次郎の考え方や気質は咲耶とは相容れないが、彼の沙雪に対する評価は間違ってないように思えた。
──秩序を重んじるという、政務態度。

溜息まじりに、沙雪が応じた。

「えぇ。若のやり方は強引な部分が多く、道義的には同意しかねることばかりですが……。
結果的には最良の政治判断であることが、否めません」

すべてを善悪で判断するのならそれは『悪』に属するのだとしても。大局においては『善』になってしまう世のことわり──。

沙雪の口調からは、そういった苦渋の決断を過去にしたことがうかがえた。
咲耶にそれを責める資格も根拠もなく、あえて先をうながした。

「それで、私はどうしたら良いですか?」

言いながらも、咲耶は薄々感づいていた。“花嫁”の利用価値が“神力(しんりき)”であることに他ならない事実が、示す先を。

咲耶を見つめる沙雪の眼に、力がこめられた。

「これから、わたくしと共に“商人司(しょうにんつかさ)”の屋敷に行き──“神力”を(あらわ)していただきたいのです」