「う、うん。ありがと……」

文字どおりの神々しさが白い神の獣から放たれ、咲耶は言葉につまる。(おそ)れを、初めて感じた。
と同時に、自分の内側に、なんともいえない高揚感がわきあがった。

この美しき獣が咲耶を必要とし、愛しい者として認識してくれている。
美しさも気高さも、底知れない『力』も、すべて咲耶の手中にあるのだ──。

高鳴る胸は自らの責任の重さを物語るが、それでも咲耶は、目の前の“神獣”の姿をした和彰こそが(・・・・・)愛しい。

「ギュッ……って、してもいい?」
『……ぎゅっ?』

理解できない『音』を繰り返して、和彰が問う。汚れを知らない青い瞳が、咲耶をじっと見つめ、小首をかしげる。

咲耶は衝動に突き動かされて、白い毛並みの猛獣に腕を回した。
抱きしめるというより、抱きつくといった体裁になるほどに成長した、『白い神の獣』。
内なる純真な魂に、呼びかける。

「あのね、和彰」

交わす言葉は、飾り気のないものばかり。
けれども、いつも咲耶の抱える想いを気遣ってくれる存在。

「私はあなたの“主”で、私の言うことを聞くのが、あなたの『理』だっていうのは分かったわ。
だけど、それでも私は、私が判断に困った時や迷った時は、あなたに一緒に考えて欲しい。
だって……それが、『伴侶(はんりょ)』ってことだと思うから」
『──……分かった』

胸のうちに届く『声』は不思議なほどに優しく、あたたかなものだった。
空間を震わせて伝わる声音とは、違うからだろうか? それは、和彰の『魂の響き』なのかもしれない。
やわらかな被毛(ひもう)を感じながら、ふと咲耶は、そんなことを思った。

『──咲耶。私もお前に願っても良いか』

投げかけられた言葉に、咲耶はくすっと笑う。

「なに? 私にできることなら、言ってみて?」

身を起こして答えると、白い虎の前足がひょいと持ち上がり、咲耶の片腕をぽすっと押した。

『私もお前をぎゅっとしたい。だが、獣のままではできない』

人の姿になっても良いか──そう続けて問いかける白い“神獣”の鼻づらが、咲耶の鼻に寄せられる。
咲耶は、乞う必要のない許しに対し、笑ってうなずいた。