セキコ・(あかね)の屋敷に着くと、例によって“花子”の(きく)が丁重に咲耶(さくや)を出迎えたが、通されたのはいつもの客間ではなく、どうやら美穂(みほ)の私室らしかった。

「“宣旨(せんじ)”の使者が来た時以来? 元気そうじゃん」

蒔絵(まきえ)の施された小さな火桶(ひおけ)に手をかざしながら咲耶を見上げ、美穂はニヤリと笑った。
赤と銀の刺しゅうが華やかな蝶柄を描いた黒地の打ち掛けを羽織っている。

「相談があるとかいうから厄介なことに巻き込まれてんのかと思ったけど、そういうカンジじゃないね。
あいつ心配してたけど、除けといて正解?」

あいつ、というのは、間違いないなく茜のことだろう。
思えば咲耶がこの屋敷を訪れて、茜抜きに美穂と話そうとしたのは初めてのことだった。

「たいがいのコトはあたしでも解ると思うけどさぁ。なんか手に負えなさそうなコトとかでてきたら、こいつ通じて訊くことにするから」

言った美穂の懐から、もこもことうごめきながら出てきたのは、スズメだった。

「“眷属”のチュン太。……ほら、あいさつ」

わずかに羽を広げ、小さく鳴いたあと咲耶に向かって会釈する。
てっきり人語を話すと思っていた咲耶は、拍子抜けしたものの可愛いらしいしぐさに微笑んだ。

「こんにちは」
「こいつ、普段は口きけないの。でも、伝達係っていうか……あ、『電話』みたいな感じ? で、役に立つから」

小さな頭をぐりぐりと美穂になでられ、満足そうにチュン太はまた美穂の懐にもぐっていく。

「で? あたしに訊きたいことって?
──あ。待った。先にあたしが訊きたい。あんた、ハクとヤッたんでしょ?」
「……………………えっと、まぁそのことに関連しての質問というか相談というか疑問なんだけど……」

相も変わらず率直な美穂の問いに、咲耶は口ごもりながら切りだす。
途中、美穂から卑猥(ひわい)な突っ込みが多々あったがなんとか応えつつ、自分の訊きたいことを話し終えた。

「あー……そっちの相談かぁ。てっきりハクが下手すぎて、不満ぶちまけたいのかと思ったのに……」