──俺は、お前という『使えない“花嫁”』を討つため。ユキは、脱獄という『罪を犯した者』を捕らえるため。
“国司”尊臣は、追捕の令を下す決断をした、というわけだ」
咲耶は、眉を寄せた。
では、闘十郎と百合子が来たのは──。
「“眷属”っていう厄介な物ノ怪を飼っているお前を、只人が追って簡単に討てると思うか?
……答えは馬鹿でも解る。
蛇の道は蛇、というだろう? あいつらは、赤虎と違って役に立つからな」
咲耶の心のなかを読んだような虎次郎に対し、咲耶の片手が上がる──が、なんなく受け止められた平手は、そのまま力任せにひねられ、突き飛ばされた。
よろめいて、咲耶は背にした几帳に倒れこむ。
「俺には短気という欠点があるが、お前という女は、他人のために己の自制心が利かなくなるのが、短所だろうな。
黒虎らが『駒扱い』されていると知り、腹が立ったか?
“神現しの宴”で白虎に駆け寄った時のように。……ふん、お優しいことだ」
咲耶は腕をさすりながら身を起こし、虎次郎をにらみつけた。
カッとなった身体が熱くなるのと同時に、咲耶の左脚に鋭い痛みが走った。
(い、たっ……!)
太い針で突き刺されたような感覚が、咲耶を襲う。断続的な痛みに、身体の自由が利かない。
「白の姫」
気遣うような呼びかけと共に、沙雪が咲耶に手を差し伸べてきた。肩ごしに虎次郎を振り返る。
「ですが、それこそが姫たちに共通する資質。
ただの優しさではなく……慈悲ともいえる、人やモノに対する深い愛情をもたれること。“花嫁”たるゆえんでしょう」
沙雪の澄んだ声音が虎次郎の行いを律するように告げたが、向けられた本人は鼻であしらった。
「はっ。慈悲? 愛情? そんなもので、腹がふくらむものか。
……人がみな、高潔で貴い精神をもっているとすれば、話は別だがな。
現実は、どうだ?
生活が困窮すれば、自分の立場が危ういとなれば、人はたやすく人を裏切る。そんなことは俺に言われるまでもなく、お前が一番よく解っているだろう」
「……えぇ、存じております」
“国司”尊臣は、追捕の令を下す決断をした、というわけだ」
咲耶は、眉を寄せた。
では、闘十郎と百合子が来たのは──。
「“眷属”っていう厄介な物ノ怪を飼っているお前を、只人が追って簡単に討てると思うか?
……答えは馬鹿でも解る。
蛇の道は蛇、というだろう? あいつらは、赤虎と違って役に立つからな」
咲耶の心のなかを読んだような虎次郎に対し、咲耶の片手が上がる──が、なんなく受け止められた平手は、そのまま力任せにひねられ、突き飛ばされた。
よろめいて、咲耶は背にした几帳に倒れこむ。
「俺には短気という欠点があるが、お前という女は、他人のために己の自制心が利かなくなるのが、短所だろうな。
黒虎らが『駒扱い』されていると知り、腹が立ったか?
“神現しの宴”で白虎に駆け寄った時のように。……ふん、お優しいことだ」
咲耶は腕をさすりながら身を起こし、虎次郎をにらみつけた。
カッとなった身体が熱くなるのと同時に、咲耶の左脚に鋭い痛みが走った。
(い、たっ……!)
太い針で突き刺されたような感覚が、咲耶を襲う。断続的な痛みに、身体の自由が利かない。
「白の姫」
気遣うような呼びかけと共に、沙雪が咲耶に手を差し伸べてきた。肩ごしに虎次郎を振り返る。
「ですが、それこそが姫たちに共通する資質。
ただの優しさではなく……慈悲ともいえる、人やモノに対する深い愛情をもたれること。“花嫁”たるゆえんでしょう」
沙雪の澄んだ声音が虎次郎の行いを律するように告げたが、向けられた本人は鼻であしらった。
「はっ。慈悲? 愛情? そんなもので、腹がふくらむものか。
……人がみな、高潔で貴い精神をもっているとすれば、話は別だがな。
現実は、どうだ?
生活が困窮すれば、自分の立場が危ういとなれば、人はたやすく人を裏切る。そんなことは俺に言われるまでもなく、お前が一番よく解っているだろう」
「……えぇ、存じております」



