もうお昼時だったので、外国人観光客だらけのラーメン屋さんに行ってみた。

 さっきのイベントのトークを思い出したのだ。

 僕たちはカウンター式テーブルに案内された。コートを脱いでかごに入れる。

 ニット姿の先輩の胸はそれほどない。

 スレンダー体型というのだろうか。

 がっかりはしなかったけど、そんなことを気にしている自分が嫌だった。

 僕らは並んで座った。

「ラーメンは食べたことありますか?」

「いや、ないな。幽霊だからな」

「じゃあ、僕が注文します」

「よかろう」

 ラーメンが二つ来た。

 外側は同じだけど、内側が赤い丼と白い丼だ。

 僕は先輩に説明した。

「これがこってり豚骨で赤丸」

「で、こっちがあっさり豚骨で白丸か。なるほど、さっきの話はそういう意味だったのか」

 イベントの話の内容が理解してもらえたらしく、先輩の顔が輝いたような気がした。

「で、麺のゆで時間が短くて固めなのがバリカタです」

 僕が麺をすすると、先輩も真似をした。

 すするのは難しいらしい。

 ガイジンのようだ。

「おもしろい味だな。この前のとはまた違う味だ」

「ああ、同じ麺類でもイタリアンとは違いますよね」

「違うが、これもおいしいぞ」

「それは良かった」

「おまえと食べているからおいしいのだろう」

 僕はめちゃくちゃ汗をかいた。

 飲んだばかりの豚骨スープが全部噴き出たかのような汗だ。

「おまえと一緒なら何でもおいしいんだな」

 先輩はスープをすくって飲んでいるけど、まったく汗をかいていない。

 まるでグルメガイドブックの撮影に来たモデルさんのようだ。

「先輩は暑くないんですか。僕は汗が止まらないですよ」

「もともと幽霊は汗をかかないからな」

 ラーメンをすすってむせてしまった。

「今のは何だ?」

「熱いのが口に入ってむせたんですよ」

「むせる?」

 先輩はラーメンを箸で持ち上げてむせる真似をした。

「まだ口に入れる前じゃないですか」

「ばれたか」

 あれ、もしかして幽霊ジョーク?