下のイベントスペースで歓声があがる。

 吹き抜けの五階まで響いてくる。

 僕は下を見た。

 トークショーが始まっていた。

 司会者が登場して、ゲストを紹介する。

「今日のゲスト、まず一人目は地元福岡県出身の糸原奈津美さんです。どうぞ」

 イベント会場のステージに糸原奈津美が登場する。

 拍手が起こるが、観客の数からするとまばらな感じだ。

「そして、小倉赤丸・末吉のお二人です。どうぞ」

 拍手や歓声がわき起こる。

 さすがテレビで見ない日はないというくらいのお笑いコンビだ。

 同じ観客とは思えないほどの盛り上がりようだ。

「いやあ、どうも小倉赤丸です」

「小倉末吉です、どうもです」

 観客が落ち着いたところで司会者がマイクを構えた。

「今日はお二人の秘密についてネット書き込みから質問してみたいと思います」

「ムムム、僕ら秘密なんてありませんけどね」

「九州ゆかりのタレントとして地元愛を売り物にしているお二人ですが、なんと、お二人とも小倉出身ではないそうですね」

 会場から薄い笑いが起こる。

「いや、これはね、秘密ではなくて、むしろ僕らネタにしてるくらいですからね」

「そうなんですよ。僕ら出身は下関です」

「じゃあ、山口県ですね」

「そうなんですよ」

「じゃあ、どうして小倉なんですか」

「それはもう、二人とも大学が小倉だった。それだけです」

「僕ら大学の落語研究会でコンビを組んでたんですよ。で、デビューするときに師匠に名前を付けていただこうということで、お願いしに行ったら、おまえら小倉の大学だから小倉でいいだろって」

「結構いい加減なんですよ、うちの師匠」

「で、師匠が豚骨ラーメンはこってりが好きだから赤丸だろと。僕はあっさりバリカタが好きなんですけど、師匠には逆らえないということで」

「え、じゃあ、本当は小倉白丸だったかもしれないんですね」

「そうなんです。で、末吉さんは、師匠が顔を見て、おまえは運がないから、大吉を狙うと一発で終わる。末永く活躍できるように末吉にしろってことになったんですよ」

 赤丸の紹介話を聞きながら、司会者が末吉の方を向く。

「赤丸さんに比べると師匠の愛情を感じるエピソードですね」

 末吉が頭をかきながらうなずく。

「うん、でもね、毎年お正月におみくじを引くじゃないですか。で、ふつう大吉が出ると喜ぶものですよね。僕の場合、ものすごくガッカリされるんですよ。大吉かよって。凶より運が悪いんじゃないかって思いますよ」

「それは微妙ですね」

「微妙とか言わない」

「すみません」

 この「微妙とか言わない」というやりとりはテレビでおなじみの小倉コンビのお約束ネタだ。

 会場が大いに盛り上がる。

 うまく小ネタを回収できたからか司会者もちょっとホッとしたような表情をしている。