「まふゆさん」

「はい」

「消えたりしないよね」

 彼女がうなずく。

「もう、幽霊じゃありませんから」

 まふゆさんが僕に手を差し出した。

 僕はその手を握ってブランコから立ち上がった。

 彼女の手はあたたかい。

「もう、どこにも消えたりしませんから」

 まふゆさんが僕を見つめていた。

 もう幽霊じゃありませんから。

 ただいまって言うために、おかえりって言ってもらうために、さよならを言ったんです。

「え?」

 言葉は何も聞こえてこないのに気持ちは伝わってくる。

 ただいま、朋樹。

 懐かしい声だ。

 僕はこの声を知っている。

 まふゆさんが真っ直ぐ僕を見つめていた。

 もう、幽霊じゃありませんから。

 もう、どこにも消えたりしませんから。

 私はまふゆです。

 私は消えたりしません。

 私はここにいます。

 もう二度といなくなったりしませんから。

 僕は彼女を抱きしめた。

 二人で星空を見上げるのは初めてだった。

 ぽっかり空いた心の穴に何かが埋まっていく。

 満たされていく。

 懐かしい気持ちがあふれ出してくる。

 いつのまにか頬にあたたかいものが流れていた。

 僕はこのぬくもりが何なのか知っている。

 こんなとき、なんて言うんだっけ。

 ……何も思い出せない。

 ああ、そうだ。

 もう、恋なんてしない。

 そんなふうに思っていた時もあった。

 でも今は違う。

 このぬくもりは幻なんかじゃない。

 二度と消えることのない確かな気持ちなんだ。

「おかえり、まふゆ」

「ただいま」

 僕の腕の中で彼女がうなずいていた。