「助けなきゃ……」




オレはそうつぶやいたけど、足がすくんで動けなかった。




「助けるって、もうダメだよ。

莉々菜はもう、助からないよ」




「だったら、見捨てるのかよ!」




「泰雅、現実を見ろ!」




彩斗はそう言って、オレをなだめた。




「莉々菜はもう助からない。

オレたちは逃げるんだ」




莉々菜の悲鳴は聞こえなくなり、怪物が莉々菜をいたぶる打撃音だけが草むらの中で響いた。




莉々菜の死は、知らない誰かの死と同じじゃない。




オレの記憶に、莉々菜との思い出がある。




莉々菜と一緒に話したこと、遊んだこと、そんなたくさんの思い出が……。




この世から意識を手放してしまった莉々菜は、もうオレには話しかけてこない。




莉々菜はもう、オレたちの元には帰らない。