「ごめん」

 孝之は素直に認めた。

 言い訳の言葉すらなかった。

 いくら言い訳を重ねたところで、決定的な証拠を突きつけられればどうしようもない。

 だから観念したのか、それとも証拠がなかったとしても私が問いただせば素直に白状したのか判断がつかなかった。

「冴島さんって元カノなんでしょ」

「うん」

「なんで?」

 彼はゆっくりと瞬きを落とし、しばらく無言になった。

 なぜ元カノだったのか、私の問いに返す答えを考えているように見えた。

 さっさと答えて、と言った私の声が部屋に響く。

「塔子と結婚してしばらく経った頃、“結婚したんだね”って電話があったんだ。その時はごく普通の世間話だった。でもしばらくして一度でいいから会いたいって言われて」

「それで会ったの」

 ごめん、と孝之は頷いた。

 会ったからこそこうなった。その事実は既にわかっているのに私は言葉を失った。

「塔子にいつ切り出そうかってずっと悩んでたんだ」

 切り出す? と訊き返したけれど孝之はそれには答えてくれず、

「離婚して欲しいんだ」

 と、私に告げた。