ミフェルが現れてから、完全に彼のペースになっていることも不安だった。彼といると自分が話すタイミングが掴めない。フリードがいない状況で、もし何か間違った判断をしてしまったらと思うと怖くて仕方ない。
「……大丈夫ですよ」
ぽん、と背中をたたかれて、マルティナは顔を上げる。
トマスがいつもの優しいまなざしを向けていて、マルティナは自分の肩から力が抜けるのが分かった。
「ディルク様もいますし、私もマルティナ様から離れないようにしますから。……それに、子爵家のご子息ですから、御父上の立場を思えば伯爵家の不興を買うようなことはなさらないでしょう」
「そうよね」
少し気が軽くなってマルティナが笑うと、ふと視線を感じた。
先ほどまでマルティナとトマスが見ていたように、ミフェルもふたりをじっと見て、からかうように問いかけてきた。
「……僕のこと、いぶかしんでる?」
あまり嘘が上手ではないマルティナは、すぐに返す言葉が思いつかず、黙ってしまった。
「……すみません。正直に言えばそうです。リタおばあさまはご高齢でした。孫のような年のあなたに、どうしてそんなにいろいろ打ち明けていたのか、とても不思議で」
「正しい疑問だと思うよ。実際、アンネマリーがいるときはリタ様はそんな内情なんてばらさなかった。込み入った話をするようになったのは、アンネマリーが社交界に出るようになって、僕が一人でここを訪れるようになってからだよ」
「……どうしてミフェル様は社交界には出られないんですか?」
男性だって結婚相手を探すために夜会に出入りする。十九歳ならば親もそれを推奨するような年齢だ。
まして双子の妹が行くというのなら、同行するのが普通のような気がする。



