伯爵令妹の恋は憂鬱



「それで私をお呼びだったんですか?」

屋敷を探索するにあたり、マルティナはミフェルとふたりきりになるのが嫌だった。

アンネマリーは散々やめなさいと言っても聞かないミフェルに呆れて、お茶のテーブルから動く気配はなかったし、アンネマリーとふたりきりになるのはローゼが気まずそうで、ディルクを一緒に連れていくのは忍びない。
そこでトマスを呼ぶように言ったのだ。

「はい。あの。トマスも一緒に……」

「マルティナ。何やってるんだよ。……あ、手伝い? えっとトマスだっけ?」

ミフェルは見下したようなまなざしでトマスを見る。実際はトマスのほうが背が高いので、ミフェルのほうが見上げていたのだが。

「ご苦労。僕とマルティナで、屋敷内からリタ様の遺書を探すんだ。君は力仕事を担当してくれればいいよ」

「はい」

トマスは来客に対する一歩引いた態度だ。ニコニコと、どんな態度にも笑顔で対応する。
ミフェルはトマスの存在など歯牙にもかけない様子で、その後はマルティナにのみ話しかけてくる。

「さあ行こう、マルティナ」

先ほどから呼び捨てにされているのも、こんな風に手を伸ばされることも、マルティナは困ってしまう。
トマスの目の前で別の男性の手など取りたくない。しかしミフェルは強引にマルティナの手首をつかむと、ぐいぐい引っ張っていく。

「生前、リタ様が言っていたんだよ。遺書は大切な思い出の中に隠したって」

「隠したっておっしゃってたんですか?」