ちらり、とアンネマリーはローゼに視線を送る。ローゼはどういう対応をすればいいのかわからないらしく、嫉妬と羞恥の混じったような複雑な顔で、ディルクに助けを求めていた。
「爵位復活の件では御父上にもずいぶん尽力していただきました。またお礼を伝えておいていただけますか?」
ディルクはさっと話を切り替え、ローゼの隣に座る。
アンネマリーはあきらめたように肩をすくめ、マルティナに笑いかけた。
「あら、駄目ね。ディルクさまが奥方に夢中っていう噂は本当のようだわ」
「アンネマリー、まだ諦めてないのかよ。それよりさ、リタ様の話をしよう。マルティナ殿はリタ様の遺産の確認に来たんだろう?」
からからと無邪気そうな笑顔を向けながら、ミフェルは強引に話を替えた。
「え? ええ」
「リタ様の遺書、見つかった?」
「は?」
驚いたのはマルティナだけではない。ディルクもだ。
「遺書があるんですか? しかしあれは完成してないと……」
「あるよ。見てないの?」
「ミフェルったら、適当なこと言わないの」
ミフェルを咎めるようにアンネマリーが口を挟む。しかしミフェルは気にした様子もなく続ける。
「本当だよ。アンネマリーが社交界で忙しくしていた間も、僕はこの屋敷にお邪魔してたんだ。リタ様と僕はね、年は離れていても親友のような間柄だったんだよ? リタ様のことなら大抵知ってる。夫の浮気がひどかった話とか。そのくせ、二人は恋愛結婚だったこととか。リタ様は侯爵家の出なんだよ。ほかにももっといい家柄の求婚者もいたんだけど、熱烈に言い寄ってくる伯爵が一番だったって。侯爵家からは反対されて、一度は駆け落ち騒ぎまでしたんだ。知ってる? この別荘がふたりの駆け落ち先だって」



