伯爵令妹の恋は憂鬱



「ねぇ、ところで伯爵は来てないの?」

窓から庭を眺めていたミフェルは、顔だけをこちらに向けて訪ねる。逆光で、表情は読み取れない。

「フリード様は本邸におられます」

答えたのはカスパーだ。

「へぇ……自分のおばあさんのことなのに自分で来ないんだ」

はっ、とミフェルは侮蔑を込めて苦笑する。兄の印象が悪くなっては困るとマルティナは恐る恐る声をあげた。

「あの、……お兄様はお忙しいんです。でもちゃんと代理を私に頼みました」

「ふうん。箱入りのお嬢さんに……ねぇ」

だが、ミフェルはさらに嘲りの色を濃くしただけだった。はあとため息を漏らされて、マルティナは自分がここにいるのが悪いことのような気がしてくる。

「まあいいや、お茶にしようよ」

切り替えたように笑顔になったミフェルが戻ってきて、テーブルを囲むのは、彼とアンネマリーとマルティナ、そしてローゼとなった。

メイドによってそれぞれの前にカップとお茶菓子が置かれたころ、ディルクが遅れてやってきて、自己紹介をする。アンネマリーはディルクに見とれたようにほう、と息をついた。

「ドーレ男爵様。お話するのは初めてですわね。ご存じです? ディルク様がドーレ男爵位を賜ると聞いて、どれほどたくさんの貴族の令嬢が色めきだったか。なのにすぐに結婚を発表されるんですもの」

「はは。ご冗談を。一度傷のついた家名にすり寄る女性もいないでしょう」

「家名じゃありませんわ。フリード様の傍にいつも付き従うディルク様に思いを寄せる女性は案外多かったんですのよ。あなたに爵位が戻れば、身分を気にする父親を説得するのも簡単だと思っていた令嬢はたくさんいましたわ」