(すっかり、女性らしくなったなぁ……)
小さく少年のようだった姿はもう見る影もない。くりっとした瞳はいつもどこかおびえた様子でこちらの庇護欲をあおってくるし、小さな唇は口紅など塗らなくても健康的なピンク色をしている。透き通るような肌が恥じらいで赤く染まるときなど、トマスでも心臓を揺さぶられるタイミングがある。
(でも、マルティナ様は主人だ)
立場が違うのだ、とトマスは自分に言い聞かせる。
マルティナがたまに向けてくる好意には気づいているが、あれは、一番近くにいる人間に恋をしていると錯覚しているだけなのだ。
もし仮にその感情が本当だとしても、フリードが許すはずがない。伯爵の妹にはそれに見合った嫁ぎ先があるのだ。
トマスがしなければならないのは、夫となる男に彼女を渡すその時まで、誰にも汚されないように守ること。それだけだ。
(そうだ。出しゃばりすぎてはいけない)
ダンスを一緒に踊るなど、行き過ぎだった。
「ヒヒン……」
馬が軽くいなないて、トマスは我に返る。
「ああ、悪い悪い。お前たち、今日は午後から来客があるからな。見知らぬ馬が来るかもしれないが暴れちゃだめだぞ」
いつもの調子に戻ったトマスだが、脳裏にはいつまでも先ほどのダンスの余韻が残っている。
細い腰があまりにも華奢に思えて、見上げてくる笑顔があまりにも可愛らしくて。
もうマルティナは子供ではないのだと、トマスはついに認めざるを得なかった。



