伯爵令妹の恋は憂鬱




途中であったローゼにマルティナに渡す水を託したトマスは、そのまま厩舎のほうへ向かった。


「やあ、トマス。どうしたんだ?」

「ちょっと手伝います。……手伝わせてください」

「助かるけど……どうしたんだ?」


とにかく今は仕事がしたい。うわついて主人との距離を見失いそうになった自分を律したかった。

馬丁とは先日一緒に仕事をしてから、気軽に話せる関係になっていた。
トマスの仕事ぶりを知っている馬丁は安心して、「だったらここをちょっと任せていいか。花に水をやってくる」と走っていく。

馬に囲まれながらも一人になったトマスはふうと息を吐き出し、先ほどまでのことを思い返した。

お茶会の準備のためにあわただしい屋敷内を、トマスは仕事を探して歩いていた。
力仕事はそこここに転がっていて、いろんなメイドがトマスを見かけるたびに仕事を頼んでくる。
一つ仕事を終えて、ほかに困っているところはないかと廊下を歩いていたところで、マルティナの可愛らしい声が聞こえてきたのだ。

扉をそっと開けてのぞき込むと、マルティナがドレスを見つめながら小さくハミングしながら拍子をとっている。

マルティナの声は綺麗だとトマスは思う。どうしても人前だと震えてしまい本来の歌声を披露できずにいるが、こうして誰も見ていないところで歌っているとき、彼女は本当に生き生きとしていて魅力的なのだ。