伯爵令妹の恋は憂鬱




トマスの宣言通り、午前中で書類の確認は終えた。
ディルクはここまで調べた内容をまとめてフリードに今後の指示を仰ぐための書面づくりが残っているために屋敷に残るという。
それで街へ向かうのは、マルティナとローゼだけになった。馬車の御者をトマスが務めてくれるという。

季節は初冬。まだ雪は降りだしていないが、だいぶ寒い。ドレスの上に羊毛で作られたコートを羽織った。

別荘から一番近い街に行くには南に下るといいのだが、西に迎えば、そう変わらない距離でアンドロシュ子爵領の街がある。高低差がないため、距離は少し長くても馬にとっては楽なので、トマスは昨日もこちらの街に行った。

ローゼは街が見えてくると、急にそわそわとして、まだ馬車の中だというのに帽子を目深にかぶりだした。


「どうしたの、ローゼ」

「いえ。……街ってアンドロシュ子爵領にあったんですね。ディルクにちゃんと言っておけばよかった」

「なにか問題ありました?」

「いいえ。大丈夫です。きっと」


挙動不審なローゼが、マルティナには不思議だった。
街を少し入って、市場の近くまで来たところで、トマスは近くの家に人間に金貨を渡し、馬への飼い葉と水、それからしばらく預かってもらう許可を取り付けた。
ここからは歩いていくのだ。伯爵家の馬車は大きく、こじんまりした市場の中を移動するのには向いていない。

ローゼは相変わらず帽子を目深にかぶったまま、首周りを髪の毛ごとストールでぐるぐる巻きにした。


「ローゼ? 苦しくないですか?」

「いいえっ、今日は肌寒くてっ。それよりマルティナ様。さーっと買い物しちゃいましょう」

「はあ」


せっかく街に来たのだから、マルティナはゆっくりするつもりだった。
しかしローゼはどうにも落ち着きがない。