伯爵令妹の恋は憂鬱




 別荘でのトマスの人気が上がっていたことを知ったのは、翌日、廊下を移動中にメイドたちが話しているのを聞いてしまったときだ。


「本邸から来たトマスさん、いい人よね。何を頼んでも笑顔で引き受けてくれるし、なんでもできるのよ」

「お使いも嫌がらずに行ってくれるし、手づかずだった物置の整理も手伝ってくれたの」

「すごく働くわよね。夫になってくれたら最高だわ」


マルティナの胸がざわつく。
メイドたちは、マルティナが廊下にいることは気づいていない。だからこそおしゃべりに興じているのだ。

そこにトマスの気持ちは含まれていない。けれども嫌だった。トマスが誰かの恋愛対象になっているなんて考えたくない。

(私の従者なんだから。ずっと私といるんだから)

自然にこぶしに力が入る。だけどトマスはもう二十六歳だ。聞いたことはないが恋人がいたっておかしくはないし、いつ結婚してもいいような年齢だ。想像するとそれだけで悲しくなってくる。


「……あ、ちょっと」


やがてメイドの一人が、マルティナに気づいてほかのメイドを肘でたたく。じっとしているわけにもいかずマルティナは歩き出した。メイドたちは深々と頭を下げ、彼女が通り過ぎるのを待った。