伯爵令妹の恋は憂鬱




朝食の後は、庭を散策するというローゼと別れ、マルティナはディルクとともに執務室へと向かった。
すでに来ていたカスパーが、机の上に書類を並べている。

「奥様が持っている財産は、この別荘地の建物に関する権利と、この周辺の花農家に土地を貸しておりますのでその地代と売上金の一部。後は先々代が残された遺産の一部ですね」

「書類として残っているのか?」

「一応、ここにございます。私が存じているのはこれだけなのですが、念のため執務室の中の書類はすべて確認していただきたいと思っております」

「遺言状は? リタ様くらい意志が強い方ならば、残しているんじゃないのか?」

「それが、……ないのです。リタ様は生前、専門家を呼んで遺書に関する相談をしておられました。しかし、出来上がったという話は聞いておりません。作っていたとしたらこの引き出しに入っているものかと思うのですが見当たりませんし、……突然倒れられたため、まだ出来上がっていなかったのかもしれません」

「そうか。その専門家とやらには確認したのか?」

「ええ。一通りの作り方は教えたが、最終的にできたものは見せられていないとおっしゃっておりました」

ディルクは少し考えるようなしぐさをした。

「仕方ない。しらみつぶしに書類を確認しましょう。マルティナ様、性根を据えて頑張りましょうね」

「……はい」

マルティナは壁に据え付けられた本棚を見て、泣きたい気分になっていた。これを全部確認するのかと思うと気が狂いそうだ。大体今までの話もほとんど分からないし、難しい文言のいっぱい並んだ書類など見ていては眠くなってしまう。

逃げ出したい欲求からちらりと向けた窓の外に、庭を散策するローゼとトマスを見つけてしまってまた落ち込む。

(私も、そっちにいたかった……)

「さあ、まずは本棚の中身をすべて確認しましょう。ただの本ならばこちらに、手書き書類であるならばこちらに分けてください」

「……はい」

まじめなディルクと厳格なカスパーによって、マルティナはこの後三時間、執務室に拘束されたのだ。