そして翌日、マルティナは馬車の中で悶々と考えていた。さすがに結婚式から二晩なにもされなければ、心配にもなる。
昨晩もよく眠れていないトマスは馬車の揺れに眠りに誘われたのか、背中を背もたれに預けて船を漕いでいた。

(トマスは、本当に私を女性として見ているのかしら)

疑念は昨晩からマルティナの頭にこびりついている。

キスはする。それ以上はと言えば、服の上から体を触れられることくらい。それも、マルティナが少しでも怯めばすぐやめてくれるくらいの、軽いもの。

トマスは婚約者となってからも一線を守り続けてきた。
大事にされていることを疑ったことはないが、歳も離れているし、女性として愛されているかと言われればいまひとつ自信はない。
時折見せてくれた欲をはらんだまなざしは、マルティナの思い込みだったのではと思うほどだ。


別荘は、ベレ伯爵の屋敷から、さらに一時間ほど馬車で南に下ったところにある。
昼過ぎまで街を散策してから出てきたので、着いたときはじきに午後のお茶の時間というタイミングだった。

到着と同時に目を開けたトマスは、「ああ、……ごめん」と言いながら彼女の手を引き中へと入る。

「お伺いしております。お部屋も準備が整っておりますよ。荷物を置いたら是非お散歩されては。この辺りは浅瀬で、砂浜が広がっておりますから」

迎えてくれた使用人は、準備万端整えていてくれた。
ふたりはまず荷物を置き、海岸に行くならと使用人から着替えを勧められたので、軽くシャワーを浴びてから着替えをする。
用意された服は、このあたりの人が良く着ている、ひざ下丈のワンピースだ。