人見知りの猫が物陰から様子を窺っていると、それに気付いたタロウが「うわ、猫まで! 俺犬猫が大嫌いなんだ」と言った。

 この時点で無理だと思った。

 たった数日の付き合いの男より、私にとってはキモかろうが、嫌われていようが、犬猫のほうが比較にならないほど大切だったし、何なら犬猫に寿命を分け与えることができるならそれも厭わないほど、愛していた。

 だけど犬猫を嫌いだからと言って、タロウの人となりを批判するつもりはなかった。

 私は虫が嫌い。カブトムシだろうがクワガタだろうが虫が嫌い。

 虫の良さを語られても、生理的に無理なものは無理。

 だからタロウとは価値観や性格、育って来た家庭環境の違い、ということで胸に畳むことにした。この時点で「ないわ」と気持ちは醒めていた。

 だけど「犬猫嫌いな人とは付き合えない」と正直に伝えるべきかどうかを少しだけ悩んだ。

 タロウを責める言い方はしたくなかった。犬猫の件さえなければ、何ら彼に問題はなかった。

 でも私にとって犬猫は掛け替えのない存在で、タロウに「犬が好きでごめん。猫が好きでごめん」こんな意味不明な心境で接するのは、それこそ意味不明だった。

 気持ちは決まっていた。

 この付き合いはなかったことにしてもらおう。

 だけど優柔不断な私はなかなか切り出せないまま数日が過ぎた。

 その日、タロウの家に呼ばれた。

 タロウは実家暮らしだった。

 そこで私は失礼極まりない発言をし、不躾な態度で家を後にした。

 でも後悔はしていない。