ぷりけつヒーロー 尻は地球を救う 第3話

 その瞬間、ジョーカーはほくそ笑み、残った左腕で素早く身体を起こすと再度両脚を広げ、凜太郎の顔めがけて飛び掛かった。
「嘘だよ!バーカ!!」
凜太郎は慌てて振り返った。次の瞬間、離れて見ていたコウが凜太郎の目の前に現れ、光よりも速いそのスピードでジョーカーの両脚と首を大鎌で斬り落とした。その太刀筋はもはや肉眼で捉えることは不可能な程だった。その動きには一瞬の躊躇いもなかった。呆然と立ち尽くす凜太郎。その額には汗を滲ませている。
「変身、解除」
凜太郎の言葉に変身装置が反応する。身体全体が白く輝く光に包まれ、元の姿へと徐々に戻っていく。その言葉からは覇気は感じられない。
 元に戻った凜太郎の心の中にやるせない気持ちが募っていく。そこへコウが早足で近づいていく。その表情は怒りで満ちていた。コウは凜太郎の目の前までくると殺気のこもった眼で睨みつけた。
「どういうつもりだ、貴様」
なにも答えようとしない凜太郎。
「敵に情けをかけ、ましてや背を向けるなど愚の骨頂。いいことでもしたつもりか?愚か者め!」
反論するかのように、凜太郎が口を開く。
「仕方ないじゃないですか!あんなこと言われたら誰だって情けをかけたくなりますよ!!俺だって"普通の"人間なんです!」
自分に対しての苛立ちを隠しきれず、語気を強める凜太郎。それに対し、コウは冷静に答える。
「よいか、凜太郎。中途半端な優しさは相手のためにも、自分のためにもならん。そんなものは今後一切捨てよ。我らがやっているのはごっこ遊びではない。戦争なのだ。戦場では女子供も一切関係ない。敵か味方か、殺すか殺されるか、あるのはそれだけだ」
なにも言い返せない凜太郎は悔しい気持ちを押し殺しながらコウの言葉に耳を傾けている。
「貴様に帰りを待つ者がいるように、当然敵にも帰りを待つ者がいる。戦場で敵に勝つということは、すなわち相手を殺す、ということだ。それは誰かの大切な者を奪うという行為に等しい。今の貴様にそれをやる覚悟があるか?」
「そ、それは……」
即答できず、黙り込んでしまう凜太郎。
「その覚悟がないのであれば、今すぐヒーローを辞めろ。目障りだ。仮にこの先、今の状態で続けたところで巨人共に殺されるのが関の山だろう。死んでから得られる名誉などなんの意味もない」
凜太郎に背を向けるコウ。凜太郎は黙ったままうつむき、微動だにしない。
「続ける、続けないの判断は貴様に任せる。死んでから後悔する前に、よく考えることだな。答えが出るまで稽古もなしだ。己とよく相談するがいい」
「コウさんだったら、あの状況でも躊躇なく殺せましたか?」
「愚問だ」
そう言い残し、コウは姿を消した。広いグラウンドには凜太郎と、ジョーカーの肉片だけが残され、飛び散った血がグラウンドを赤く染めていた。



 一方その頃。建物の陰に隠れてその様子をカメラで録画していた偵察班は本部に報告すべく、準備を進めていた。その様子からは焦りの色が見える。
「ま、まさかジョーカー様までやられてしまうだなんて!それに、あの連中のことも。急ぎ本部にご報告せねば!!」
「なにを、どこに報告するって?」
偵察班の男が恐る恐る振り返ると、そこには不気味な笑みを浮かべて立っているベルの姿があった。
「き、貴様は――」
躊躇いなく剣を抜き、偵察班の男の首とカメラを持っている右腕を一瞬で斬り飛ばすベル。男はその場で倒れ、切断された首はボールのように三回程転がった。切断面からは血が溢れ出て、地面を赤く染めていく。ベルはそれを確認すると剣を収め、カメラを男の切断した右手から強引に奪い取った。
「うし、これで任務完了っと。やれやれ、今回は俺がお掃除係かよ。貧乏くじ引いちまったぜ、ったく……」
ベルはぼやきながら、物憂げな様子でその場を後にした。



 地球から一万光年ほど離れた宇宙を漂う謎の宇宙船。そこの第一艦橋の艦長席に一人の男が座っている。その隣には黒いフードを目元までかぶった不気味な女が立っている。艦長席に座る男は苛立ちながら艦長席から見て左側にある席に座る通信班長に訊ねた。
「ええい!偵察班からの報告はまだなのか!?」
通信班長の男はたじろぎながら答える。
「それが……その、ジョーカーからの通信が途絶えた直後に偵察班からの通信も途絶えまして……」
フードの女が割って入り、冷静に答える。
「しくじった、と考えて間違いないでしょう。偵察班もやられてしまった可能性が非常に高いです」
「参謀長!一体どうなっとるんだ!!貴様が良き策があるというから任せたのだぞ!この責任、どう取るつもりだ!!」
「申し訳ございません。ですが、今回の失敗の原因は無能な駒にあります。我が策に問題はございませんでした。次の駒は必ずやご期待に添える結果を残してくれることでしょう」
「して、その駒というのは?」
「クイーンを使います」
驚きの表情を見せる艦長らしき男。
「ついに、完成したのか!?」
「ええ。ようやく……」
不気味な笑みを浮かべる参謀長。艦長らしき男は遥か彼方にあるであろう地球を見据えた。
「見ていろ……!ぷりけつヒーロー、いや、品川凜太郎!次こそ貴様の最後だ!!」
艦内に艦長らしき男の笑い声が響き渡る。



 その頃、凜太郎はヒーローとしての自覚、自信、それらが全て音を立てて崩れさり、失意の中にいた。
今、凜太郎に決断が迫られていた。
時は待ってくれない。そして、新たな脅威も――。