BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー

『ああ……。大したことないみたいだとは聞いてるよ』

 夕貴は初めこそ戸惑っていたが、最後は月穂を励ますように優しい声音で語りかけた。
 姿が見えなくても、月穂の異変には電話で十分伝わったみたいだ。

「そうですか……。本当に……本当によかった」

 喉の奥が乾ききっていて、掠れた返事になる。
 やはり言葉を出すと同時に鼻の奥がつんとして、頬にひと筋、濡れた跡ができた。

 涙を堪えるためには、少しの間黙るしかない。
 月穂はグッと奥歯を噛んで、瞼を閉じた。

『そんなに泣くくらい、祥真のこと心配してたんだね』

 夕貴に苦笑いとともに言われ、押し込めていた感情がはじけた。

 もし、彼になにかあったなら……。
 絶対に、あのとき彼と会えなかったことを死ぬほど後悔する。

 どうして、あのとき連絡先をきかなかったのか。
 なんで、足を引きずってでも会いに行かなかったのか。
 もっと早く、素直に言葉にすればよかった。

「――はい」

 月穂は手の甲で目尻を拭う。

 今は泣くよりも先にするべきことがある。
 まっすぐ前を見て、口元を引き締め直した。

「隼さん、今日ご帰宅されますよね?」
『あ、うん。たぶん、もうそろそろ後処理から解放されると思うけど』
「そうなんですね。わかりました。お忙しいのにわざわざ折り返し連絡をいただいて、ありがとうございました」
『あのさ……俺、大和さんに謝らなきゃならないことが――』

 夕貴の声を掻き消すように列車がホームに滑り込んでくる。

「あっ。すみません。電車が来ちゃいました」

 月穂は夕貴に話しかけられたことに気づかず、乗客が降りるのを待つ。車輌入口のステップに足を乗せ、笑顔で答えた。

「櫻田さんのフライトが無事に終わるよう、祈ってますね。それじゃあ」