お兄ちゃんを決して忘れてしまったわけじゃない。
むしろ、近くに感じるとまで言ってくれた。
「あたし、蒼くんになにができるかな……」
つぶやいたのは、そんな蒼くんへの素直な気持ちだった。
「え?」
「お兄ちゃんにしてくれたこと、ちゃんと返して行きたい」
「……っ。
……美紗も、いっちょまえに生意気なこと言うようになったな」
蒼くんは、照れを隠すように、あたしの頭の上にまた手を乗せた。
「なーんもいらねえよ。ただ、美紗が笑ってれば、それでいい」
そしてクシャクシャッと撫でた。
トクンッ……。
またひとつ、小さく胸が音を立てた。
お兄ちゃんがいなくなった今、あたしと蒼くんの関係はどうなっていくんだろう……。
やっぱりあたしは、いつまでたっても"お兄ちゃんの妹"なの……?
ひとりの女の子として見てもらえない?
蒼くんの"特別"には、なれないですか……?
雷はもう通り過ぎた様子。
空には星が瞬き始めていた。



