「ああ。俺がバスケから離れるのは期間限定ってな。ほんとは、遥輝の病気が治るまでって意味だったんだけど」
蒼くんは、そこで軽く呼吸を整える。
「遥輝も俺がバスケをするのを望んでるはずだから」
お兄ちゃんを探すかのように、空を見上げる蒼くん。
少し湿気を含んだ夜風が、蒼くんの髪を緩やかに揺らした。
「……お兄ちゃんも、絶対喜んでるよ」
いつだって、自分のことみたいに『蒼のプレーはすごいんだ』って言ってた。
部活を辞めてしまったときは、複雑な想いを抱えていたみたいだから、きっと安心してるはず。
「どっかで見てる遥輝にさ、ちゃんと頑張ってる姿見せたいんだ」
その横顔は、凛としていた。
あれだけお兄ちゃんの死に打ちひしがれていた蒼くん。
このまま蒼くんが立ち直れないんじゃないか……。
あたしだって、そんな蒼くんに会うのが実は不安で。
蒼くんに真正面から向き合うことを避けていたのは、あたしも同じだったかもしれない。



