そんな中でもここへ来てくれたということは、あたしと話す意思があるはず。
それを勇気にして、あたしは鞄の中から"それ"を取り出した。
言葉よりも一番伝わると思ったから。
あの、ハンカチ。
「……受験の時は……どうもありがとう……」
これが誰のものであろうと、あたしは久我くんから借りたから。
ゆっくり彼の前に差しだすと。
「……受け取れないよ」
ハンカチに目線を落としてぽつりと放った。
どうして?と、あたしが問うより早く、その答えを導く。
「それは……俺のじゃないから……」
「……っ」
やっぱり。
予感が確信へと変わる。
「その持ち主は―――」
「お兄ちゃん、でしょ……?」
あたしが遮って言うと、久我くんが大きく目を見開いた。
言葉よりもわかりやすい、何よりの表現だった。



