するとそこへ、さっきの看護師がやってきた。
「遥輝君、そろそろ病室に戻ろうか」
「はい」
……待ってくれよ。
まだまだ話し足りねえよ。
「風が冷たいから、ごめんね」
看護師は俺に向かって言うと、車いすを回転させる。
その時気づく。
遥輝君は、もう自力で車いすさえ操作できないんだと。
だから、さっきも俺に頼んだんだ。
「……くっ……」
喉元で、堪えられない嗚咽が漏れる。
「……待ってよ……遥輝君」
かすれた声で呼び止めた俺に、遥輝君はゆっくり振り返った。
「凛太朗、頑張れよ。……ありがとう」
なんだよそれ。
別れの挨拶みたいに……。
やんだ風のおかげではっきり聞こえたその声は、いつまでも俺の頭に響いていた。



