病気の話は今まで聞いたことがなかった。聞かなかったことを、今、この瞬間に後悔した。
髪の毛が抜けているならガンかもしれないと思ったのはずっと前。
遥輝君がいつも明るいから、忘れかけていたのも事実。
でも。
いきなりそんなこと告げられたって、思考が追い付かない。
想像すらしたことなかった。
……遥輝君が死ぬ、とか。
「ダメってなんだよ!全然わかんねえよ!」
ぶつかりそうなくらい至近距離にある顔と顔。
必死な俺とは対照的に、遥輝君は柔らかい表情を変えない。
その冷静さが余計に腹立つ。
「凛太朗……」
「嫌だっ……そんなの絶対……認めないっ……」
言いながら、涙がこぼれた。
胸が張り裂けそうに苦しい。
遥輝君が死ぬなんて、そんなことあってたまるかよ!
「いい男が台無しだぞ」
「……嫌だ、俺は……嫌だっ……」
泣きながら"嫌だ"を連呼する俺に、遥輝君はいよいよ困ったように眉根を下げた。



