俺の知識で髪の毛が抜けるといえば、抗ガン剤の副作用しか思いつかない。
それって、つまり、ガンってことだろ?
この年でガンなんて……闇に突き落とされるようなものだ。
そんな彼は、俺を見ることで、自分の境遇をさらに悲観してしまうんじゃないか……?
「入らないんですか?」
ふいに彼が振り返る。
さっきまで中にいた俺が、いまだ廊下で突っ立っているのを不思議に思ったのかもしれない。
「あ……」
まるで、俺の心の中を見透かされたようでバツが悪くなる。
それだけ言うと彼はすぐにまた前を向き、自販の前までいくと車いすを止めた。
……飲み物を買いに来ただけなのかもしれない。
なら長居はしないか。
俺はどこかホッとして、談話スペースに入るとそこを通過してテラスへ出た。
ここは南側だからよく陽が当たっている。
秋の風は心地よく、椅子の背もたれに体を預けるようにして本を開いた。



