談話スペースに向かうと、誰の姿も見えなかった。
ホッとした。
ひとりの方が落ち着く。
他に患者がいれば話しかけられることもあり、雑談が苦手な俺は何を話せばいいか戸惑ってしまうから。
テラスで本を読んで、そのあと昼寝でもするか。
そう思いながら談話スペースに足を踏み入れた時。
背後で物音がした。
振り返ると、廊下で車いすに乗った男の人が、一生懸命車いすと格闘している。
どうやら、動かなくなってしまったらしい。
周りをみてもここには俺しかいない。
「あの、手伝いましょうか?」
足を戻し声を掛けた。
自分から声を掛けるのは苦手だが、ほかに誰も居ないし見て見ぬふりはできなくて。
俺の声にハッとしたように顔を上げた彼は。
「すみません、お願いします」
少し苦笑いしながら頭を下げた。



